Sasaki Toshinao

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過去ログ(〜2016.08.17)

2016.07.07

参院選の投票先が悩ましいが……とりあえずの結論

今回の選挙でどこに投票するのかを考えるとき、たいへん悩ましいのは憲法改正の問題だ。わたしは九条は現状に合わせて改正するか、何らかの条項を加える必要があると思っているけれど、自民党が2012年につくった「憲法改正草案」は、まったく同意できない。しかし自民・公明の政権与党がこれまでにおこなってきた政策を私は妥当だと考えていて、ある程度支持している。つまり、この二重のジレンマをどう乗り越えて投票すればいいのか?という問題。

自民党憲法改正草案はまったく同意できない

自民党の憲法改正草案は、とにかくひどい。たとえば、自民党草案で新設された第24条「家族、婚姻等に関する基本原則」では「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される」としている。しかし、そもそも家族が社会の基礎的な単位であるという定義そのものが2010年代の日本社会ではすでに崩壊しつつある。単身家庭が過半数を占め、結婚制度が衰退していくであろう今後の日本社会を規定していくためには、このような古臭い原則を導入すべきではない。

また現憲法の「公共の福祉」を、改正草案では「公益及び公の秩序」と言い換えている。公共の福祉があくまでも「誰かの人権が他者の人権を侵害する場合は、人権は何かしら制約される場合がある」という意味で使われるのに対し、改正草案の「公益及び公の秩序」は、このような人権と人権の相互調整だけでなく、「公」をより広義に解釈している。自民党のウェブサイトの憲法改正案Q&Aでは、こう書いている。

「意味が曖昧である『公共の福祉』という文言を『公益及び公の秩序』と改正することにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたものです」

「『公の秩序』とは『社会秩序』のことであり、平穏な社会生活のことを意味します。個人が人権を主張する場合に、他人に迷惑を掛けてはいけないのは、 当然のことです」

まるで古臭い道徳の教科書のような文章だ。しかしこのような「公」の拡大は、国家的な「公」ではなく新しい市民間の公共圏である「共」が求められている最近の社会の流れに、まったく沿っていない。

これからの社会で家族制度や公共圏をどう扱うのかというきわめてクリティカルな社会システムを論じる中で、自民党改正案のこれらの項目はあまりにも……ということだ。

そういうわけで参院選になったわけだけど…

そういう中で参院選がやってきて、改憲勢力(自民・公明・おおさか維新の会など)は、改憲の国民投票を可能にする3分の2の議席をとろうとしている。

自民党は「改憲は争点ではない」と積極的に発言していない。しかしそんなことを単純に信じる無邪気な人はあまりいないだろう。

テレビ朝日の党首討論で安倍首相は、「選挙というのはたくさん争点がある。われわれも憲法改正草案をつくり、示している。今回の政権公約でも、憲法改正について触れている。ただ争点にするのであれば、何条をどう変えていくかということにしなければいけない。まだ憲法審査会で収斂されていない。発議するのは国会だから、そこでしっかり議論して、国民投票で決める。それが憲法だ」(安倍首相「憲法改正は3年や4年で、できる話では全くない」

微妙にわかりづらい。争点にはしないが、しかし参院選後に「選挙抜き」で進めるかもよ、と読めなくはない。もちろん国民投票を乗り越えないと憲法は改正しないけど、「投票一発」ではうっかり変な結果になってしかねない危険があるというのは、イギリスのEU離脱で世界中が思い知らされたばかりだ。

民進党の岡田代表は、こう指摘している。まったくおっしゃるとおりだと思う。「野党第1党である民進党と話し合いたいと言うのなら、まずはとんでもない自民党の憲法改正草案を白紙にするべきではないか。そのくらいの覚悟があっておっしゃっているのかということを谷垣さんに言っている」「安倍総理は憲法改正にまったく触れず、総裁と幹事長で言っていることが全く違う。与党間でも自民党総裁と公明党の山口さんとで言っていることがまったく違う」

自民党の高村正彦副総裁は、参院選後に改憲する可能性について「10年先などの将来は知らないが、(当面)ゼロだ」と言っている。これもまあ信用はできないが、この記事で重要なのは、自民党以外の改憲勢力への高村さんの言及。

「おおさか維新の会も9条改正は『時期尚早』。公明党はもともと自民党とスタンスが違う」

公明党・おおさか維新は保守政党ではない

公明党は憲法九条については改正ではなく、条項を加える「加憲」が良いと主張している。そしてこの党の思想から、基本的人権の制限や保守的な社会観への回帰といったことを受け入れる可能性はきわめてゼロに近い。公明党は参院選公約には憲法改正についてこう掲げている。「恒久平和主義、基本的人権の尊重、国民主権主義という憲法3原則は、人類が長い時間をかけて獲得してきた普遍的な原則であり、これからもずっと守り続けていくべきだと考えています」。またおおさか維新の会も同様に、憲法改正については「身近で切実なテーマについて改正を発議」として、教育の無償化と統治機構改革、憲法裁判所の設置という三つの改正テーマを挙げている。これらも説得力があり、賛同だ。

先ほどの記事で、高村副総裁は、国会の憲法審査会で議論して、改憲勢力の理解を得られるような「特定の条項」を探す努力ははじめるとも言っている。「特定の条項」が何かというと、大災害時の国会議員の任期延長や、各都道府県ごとに最低1人参院議員を選出することなど。これが改憲の「入り口になる」という説明。

このあたりの流れはかなり論理的で、納得できるとわたしは個人的には受けとめている。今回の参院選で改憲勢力が3分の2をとれば憲法改正発議に持って行けるということが言われているが、改憲勢力は自民党(と日本のこころを大切にする党)だけではない。公明党とおおさか維新の会の同意がなければ、憲法改正発議はできない。

安倍政権はとかく全面的に否定する人たちが目立つけれども、TPP交渉成功や韓国との従軍慰安婦問題合意、農協改革などの政策に私はとても賛同しているし、何よりこれらはリベラリズム的な政策や取り組みである。アベノミクスも現状ではうまく行っていない点もあるが、しかしこのリベラル的な経済政策を私は支持し、岩盤規制の撤廃など長期的な将来に期待している。これらのリベラルな政策と、自民党の憲法改正草案は、同じ政党のものとも思えないほどだ。まあ改正草案は、民主党政権時代に下野していた谷垣自民党がつくったものなのだが……。

現時点での私の個人的判断として、安倍政権にたいしては、支持すべきところもあれば、支持できない部分もある。憲法についても、改正草案にはまったく同意できないが、九条の修正は必要だと考えている。民進党などの野党勢力にもがんばってほしいところだけれど、民進党の経済政策は現状ではあまりに曖昧すぎて同意できない。ただし、シルバー民主主義の問題にも積極的に切り込もうとしている細野豪志さんたちは支持したい。

わたしの現状での判断としては…

そうなると現状では、「与党の一角を担っているが、保守的な方向への改憲は考えていない」という勢力への期待がいちばん妥当という結論になる。つまり公明党と、おおさか維新の会だ。

というわけで、わたしはこのどちらかの党に投票しようかな、というのが今のところの考えだ。